労働関係法務

元従業員から未払い残業代を請求された事例

事案

会社が,退職した従業員から約400万円の未払時間外手当(残業代等)の支払いを請求された労働審判の事案です。

争点

従業員は,時間外手当を一切受け取っていなかったとして,就業当時のタイムカードをもとに未払額を計算して請求を行ってきました。
ところが,会社は従業員に一定額の職務手当を毎月支払っており,就業規則上,この職務手当が時間外労働があったとみなして支払う見込み割増賃金と定められていました。すなわち,会社は,職務手当が時間外労働手当に該当し,それに付加して時間外労働手当を支払う必要はないと主張しました。
また,従業員の請求においては,出社時刻から退社時刻までのすべての時間を労働時間として計算していましたが,会社は昼休みなどの休憩時間を与えていたため,従業員の主張には根拠がないと主張しました。
さらに,従業員は過去約3年分の時間外手当を請求していましたが,労働基準法上賃金請求権は2年間で消滅時効が成立するため,この点も主張しました。

結論

裁判所の見解は,時効が中断する要素はなく,過去2年を超える部分については時効が成立しているというものでした。また,休憩時間も休まずに働いていたという証拠も認められず,その分の時間外手当は発生していないと判断しました。他方で,職務手当が時間外労働手当に該当するとの会社側の主張については,就業規則の周知性が欠けているのではないか,個別の合意を得ていたとも考えにくいのではないかと判断しました。
このように,当方の主張すべてが受け入れられたわけではありませんが,労働審判に不服がある場合は通常訴訟に移行することになるため,早期解決の観点から,解決金120万円で従業員との調停に応じました。

コメント

労働審判とは,個別労働紛争について,労働審判委員会(裁判官である審判官1名と労使の労働審判員2名で構成されます)が事件を審理し,調停を目指しながら,これが成立しない場合には審判を言い渡す非公開の手続です。裁判所で行われる手続ではありますが,通常の訴訟と異なり,原則3回以内の期日で審理が終結となるため,個別労働紛争の早期解決を図ることが出来ます。他方,3回で結審するため,新たな主張や証拠を提出できるのは第2回期日が終わるまでと制限され,期日においても即座に口頭で反論する等の対応が必要となってきます。これらのことから,労働審判を申し立てられる側となった場合(多くの場合は使用者です),第1回期日が開かれるまでに迅速に,かつ,綿密な準備をしておく必要があります。特に,本件における消滅時効の点などは,弁護士でなければ見落としてしまう危険性もはらんでいます。
労働審判の申立書が届きましたら,すぐに弁護士に相談することをお勧めします。

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